東京―大阪 最強の移動手段(実践編)

旅人 タビテ・ツクバ


 以前のたびてつのミーティングで、つくば・東京―大阪の移動手段を比較検討した。
 しかし、いろいろ登場した中で、一つ登場していない交通機関がある。そう、船だ。
 筆者のように北関東育ち(宇都宮)だと、船どころか飛行機にすら乗ったことがなかったという事態が生じるが、大学生になってから気づいた、船旅の良さを挙げてみよう。まずは安さ。ホテルに一泊するのとほぼ同じ値段で寝ている間に移動できる。それなら夜行バスのほうが安いと思われるだろうが、次の良さとして快適さがある。ホテル並みの設備で、体を伸ばしてゆっくり休めるのだ。

 というわけで、大阪まで船を使って移動してみようと思う。簡単に行程を説明する。筆者の実家の宇都宮からJR両毛線で高崎へ、そこから上越新幹線で新潟に向かう。新潟からは新日本海フェリーで敦賀(福井県)を目指し、特急サンダーバードで大阪へ、という流れだ。東京―大阪の航路は現存せず、半ば無理やり詰め込んでいる時点で実用性が皆無なのだが、面白いからやってみる。
なんで大阪目指すのに新潟行くんだよ
 新日本海フェリーの新潟発は16時30分なので、本来は東京・高崎を昼過ぎに出なければならない。だが、この日はフェリーの出港が3時間遅れるとの連絡があったため、高崎駅を16時30分に出発。自由席は混雑していたが、なんとか席を確保。今や貴重な車内販売で購入したアイスクリームを食べて一息つく。今回乗船する新潟フェリーターミナルまでは、JR新潟駅からバスで20分程と好立地。19時前にはフェリーターミナルに着いた。
 ここで、新日本海フェリーについて説明しよう。新日本海フェリーは、北海道から日本海側各地を結んでいるが、今回乗船するのは、苫小牧(北海道)~秋田~新潟~敦賀(福井県)を結ぶ航路。苫小牧から敦賀まで実に34時間かけて運航する。このうち、新潟~敦賀は週に一回だけしか運航しないが、新潟を16時30分に出ると敦賀に翌朝5時30分に到着し、敦賀から特急列車に乗り継ぐと、8時には大阪に到着できるという、(東京からはともかく)新潟から使いやすいダイヤになっている。運賃は学割で6080円であった。
 19時45分に乗船。週一本しかない新潟~敦賀は貨物輸送が主体で、乗客は多くない……と言いたいところだが、シルバー団体のツアー客が20人程乗船してきた。今回の寝床は、「ツーリストB」と呼ばれる、一部屋に二段ベッドが24人分並ぶ区画である。混雑する時期・区間なら隣人もいただろうが、今回は一部屋に3人程であった。
 荷物を置いて、まずは船内レストランへ。新日本海ビーフカレーを食す。食べ終わったところで、ちょうど出港したようだ。デッキに出てみると、水面越しの夜景がよく見える。漆黒の海を進んでいく、鉄道やバスでは味わえない独特の旅情というか、「旅」をしている実感がなんともいえない。
新日本海オリジナルビーフカレー
 食事を終えた後には大浴場に向かいたいところだが、冬の日本海は荒れており(そもそも今日の遅れも荒天のため)、手すりなしではまともに歩くことができない。筆者は長距離フェリーに乗るのは3回目で、船の独特の揺れには慣れているつもりだが、この環境では初心者におススメできない。初心者ならば、関西~北九州の瀬戸内航路をおススメする。内海なら揺れは少ない(※慣れていようがいまいが酔い止めは必須である)。入浴を終え、今日は早めに休むことにした。
 目が覚めたのは6時ごろ。船内の揺れはかなり小さくなっている。モニターの位置情報を見ると、もう福井県まで来ているようだ。日の出を拝みたいと思いデッキに出ると、昨夜見たツアー客だろうか、同じことを考えている人が何人もいた。船から見る日の出は別格だ。地上と違って遮蔽物が皆無なのだ。右に夜明け直前の写真を載せるが、とても幻想的な光景である。モノクロで見ている方は、たびてつHPから是非カラーで見て頂きたい。カラーで見ている方は、実際にフェリーに乗って日の出を拝んでみてはいかがだろうか。
夜明け直前の光景
 船内で簡単に朝食をとり、敦賀港には8時到着(定刻なら5時30分)。結局昨夜は3時間半遅れで出港したから、遅れが1時間回復したことになる。嘘だろ、あの荒れてた海で回復運転していたのか。下船後に改めて船体を見て、その巨体に頼もしさを感じた。
新日本海フェリーの船体
 その後は、敦賀駅から特急サンダーバードに乗車し、大阪駅には10時03分到着。東京―大阪の移動としてなら、実用性が皆無な(週一しか使えない)手段ではある。ただ、ロマンと楽しさを追い求めた、ある意味では”最強”の移動手段と言えるのではないか。このように、フェリーを旅程に加えることで、旅に彩りを与えることができると主張しておきたい。


旅人キドリ 2025年新歓号