たびてつ・地理愛合同房総横断旅行

旅人 動輪径27インチ


 6月下旬、筑波大学地理愛好会(略称:つくちり、地理愛)さんと合同で房総半島横断旅行を行った。内房線の五井駅から、小湊鉄道といすみ鉄道を乗り継いで外房線の大原駅に抜ける、という旅である。
 集合場所は五井駅。初乗車の東武野田線を経由してのんびりと向かい、一旦改札を出た。JRのホームから小湊鉄道の駅と車庫を眺めるだけでも楽しいので度々(直近では昨年の晩秋旅行の際)降りているが、階段を上るのはおそらく初めてだ。自由通路から見下ろした車両基地にはキハ200形やキハ40形などが並んでおり、建屋の中からは保存車であるキハ5800形も覗いていた。
五井駅自由通路から五井機関区を望む
 再び改札口を通り、入れ子構造になっている小湊鉄道の中間改札に並ぶ。今回使ったのは大多喜まで片道有効・途中下車自由の房総横断記念乗車券。私は改札口で購入したが、食券機タイプの券売機でも発券できるようである。階段を降りると、右にこれから乗車するキハ200形2両編成が、左に後で乗車するトロッコ列車が停車していた。
初めに乗車したキハ200形気動車(五井駅)
 しばし撮影に興じてから乗り込み、地理愛の方々と顔を合わせる。接続待ちでやや遅れ、列車は五井駅を発車した。座席が埋まるくらいの乗車率。ロングシートの車内を見渡すと、封鎖されてはいない車掌台の手ブレーキと、「五井―上総牛久間 禁煙」の札(かつては上総牛久以東で喫煙が可能だったようだが、流石に今はそうではないはず。隠していたものがはがれてしまったのだろうか。)が目についた。
 エンジンの音を聞きながら揺られること30分、上総牛久駅で列車を降りる。ふと見ると先頭ではタブレット(正確には通票)の受け渡しが行われていた。ここから先は非自動閉塞なのだ。街の中を歩き、声を掛けられて店を覗くなどする。地理愛としては、活性化に取り組んでいる商店街を視察するという裏テーマがあったそうだ。
通票授受(上総牛久駅)
 駅に戻って再び列車に乗車。今度は観光列車である房総里山トロッコだ。2015年に運行を開始したもので、牽引するディーゼル機関車は蒸気機関車を模している。製造は機関車・客車ともに主に保守用車を取り扱う北陸重機工業であるそうで、角張っていたり戸袋がなかったりなど、簡素な構造である。指定席券はオンラインチケットで、手元に何も残らないのは少々寂しくも感じられてしまう。割り当ては窓ガラスのない展望車。眺めの良い橋の上など要所要所で徐行しつつも、時折速さを感じさせながら列車は進む。構内に貨車が留置されていた里見駅ではホームで物販があり、その先、山あいのトンネルでは車内の照明が切られるというサービスも。観光列車も楽しいものである。
房総里山トロッコ(里見駅)
トンネル内で消灯
 トロッコ列車は養老渓谷駅が終着。降り立ったはいいものの、観光名所とされる場所は遠く、駅前で売店の方と話すなどしながら列車を待つ。一時は強めの雨も降ってきたが、この日それ以降は降られず、標高が高くないとはいえ山の中であることを感じた。
 養老渓谷駅からは再び普通列車に乗る。やってきたのは数年前にJR東日本から譲渡されたキハ40形、首都圏色の2両編成だった。クロスシートが並ぶ車内はまた違った雰囲気で、新(?)旧の車両を乗り比べることができたので満足だ。1駅10分の乗車を終え、終点の上総中野からはいすみ鉄道に乗り継ぐ。車両はいすみ300型、10年ほど前に製造されたもので、造形は真岡鉄道モオカ14形と同一だ。40年以上前に造られれたキハ200形・キハ40形と比べると、車内外に新しさを感じる。
キハ40形といすみ300型(上総中野駅)
 次に降りたのは大多喜駅。ここでは比較的時間を取って市街地を散策した。「商い資料館」・「釜屋資料館」を見学したり、城をモチーフにした小学校やモダニズム建築の町役場を眺めたり。再び地元の方に話しかけられ、今度はご自宅のお庭をご案内いただいたりもした。普段の旅行ではそう人と話す機会はないのだが、場所柄ゆえだろうか。駅に戻った後は、待ち時間を利用して隣接の車両基地を眺めた。道路沿いには国鉄型気動車であるキハ52 125と、キハ20・52系気動車をモデルとした新造気動車いすみ350型が留置されている。きついアールなどが原因で多少の違和感を覚えてしまいもするが、両者はよく似ている。不思議なのは、標準的な顔立ちのいすみ300型がクロスシートであるのに対し、観光列車により向いているであろう本形式はロングシートであるらしいということだ。
城を模したデザインの町立大多喜小学校
右奥が大多喜城の復元天守
キハ52 125といすみ350型
 大多喜駅から乗ったのは、大多喜駅までと同じ車両であった。大原駅と上総中野駅の間をちょうど一周してきたらしい。夕方の列車には学生が多く乗っていて、邪魔にならないよう立つ場所に気を使うほど混雑していた。
 終点の大原駅に着くと解散となったが、数人で連れ立って街を歩いた。漁港を歩いて猫を愛でたり「津波シェルター」(プラスチック製の潜水艇のようなもの)を覗き込んでみたりなどした後、海岸に向かった。足元の岩には無数の穴があり、遠くの崖には縞模様がはっきりと見えた。今度は地質をテーマに房総を巡ってみるのもよいかもしれない。
漁港の猫
大原の海岸
 駅に戻るころには日も沈みかけ、美しい夕焼けが見られた。初乗車のE131系に20分ほど揺られた後、上総一ノ宮駅でE217系に乗り継ぎ、総武線各駅停車、武蔵野線、つくばエクスプレスと乗り換える。朝から随分動いたものだ。疲れたが、充実した一日であった。
 地理愛の皆様、現地でお会いした方々、ありがとうございました。
ありがとうございました(大原駅)

余談

 地理愛側の幹事さんは以前からの知り合いで、商店街ごとに街灯が違って面白い、という話をしたことがあった。
 今回の旅行では牛久、大多喜、大原と少し意識しながら歩いていたのだが、それぞれ異なるデザインであるのは当然として(牛久と大原は似ているように見えるが、柱の部分に加え電灯の笠もよく見れば異なる。大多喜のものが洒落ているのはやはり歴史を意識しているのだろう。)、銘板やステッカーを見るといずれも群馬県高崎市に起源がある賛光電器産業社によるものであった。関東一円(あるいはより広域に)高いシェアを誇っているのか、それともこの地域に強い営業攻勢をかけたのだろうか。興味深いものである。
左から牛久、大多喜、大原


旅人キドリ 2023年雙峰祭号