ミジンコ(広義)をやめましょう

カテゴリー:コラム雙峰祭2021

投稿日 2021106

更新日 2021年10月6日

まずは自己紹介

初めまして。怠惰な気分屋を営んでいるしがない貝類です。
サークルに所属しているだけの存在でしたが、この度は学園祭!!ということで何かしら記事を書いてみようと思います。

前書き

私は微細なプランクトンや原生生物といった微生物が好きなのですが、1つ気がかりなことがあります。
「好きな生物って何?」と聞かれた際に、カイミジンコが好きだと答えると一部の人から、
「ああミジンコね」や「ミジンコのこと?」と言われることがあるんですよ。

人人人人人人人人人人人人人
>分類がっ、違うっ!!! <
Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y

取り乱してすみません。
要は名前に”ミジンコ”が入っている生物って高確率でミジンコ(狭義)だと勘違いされてしまうのです。こういったことは生物に割と良くあって、例えばタラバガニとカニ、クモヒトデとヒトデとかも同じですよね。

今回はそうした勘違いを訂正することを目的として、以下の生物群の分類と特徴について軽く紹介していこうと思います。
この機会に是非、皆さんもミジンコ(広義)をやめましょう!

お品書き

※この記事では末尾に記載の図鑑や検索図説、他資料を基に分類していますが、必ずしも正確性に重きを置いていないことにご注意ください。また、この記事の目的は大まかな分類を知ってもらうことであり、詳細な系統関係や最新知見を反映するものではありません。

ミジンコ

まずは国民的知名度を誇る微生物、ミジンコからいきましょう。
ミジンコの分類は大まかに以下のようになっています。

どうでしょう?思ったよりもごちゃっとしていますかね。
ただ眺めてもらうだけでは意味がないので、上流(左側)から説明していきましょう。

まず、ミジンコは動物なので動物界です。そして、昆虫とかで有名な節足動物に含まれ、海鮮が美味しい甲殻類に含まれていくことがわかりますね。その次の読み方がわかりづらい鰓脚綱(さいきゃくこう)の下流に配置されている、ノロ上目と枝角上目が俗に言うミジンコ達です!

じゃあ小学校の教科書に載っていそうなミジンコってどこなのさと言われますと、鰓脚綱 枝角上目 異脚目に大体含まれています。ちなみに、他のノロ上目や櫛脚目、鉤脚目は一般的なミジンコとは形態が異なっているものといった感じです。

あんまし詳しいことを言うと私自身の知識不足が露呈するだけ・・・、もとい本筋からずれますのでこれ以上の詳細は述べませんが、重要なことは以下の通りです。

\\ミジンコと言えど色々いる//

また、形態については割とご存知だと思われるので、可愛くピョンピョンしている動画を貼っておきます。
これは昔に田んぼの水を濃縮した時の様子で、確かルーペを介したスマホでの撮影です。ミジンコの採集はお手軽ですので皆さんも気になったら是非ネットで調べて、実際に採集に行ってみてください!

So cute!

 

ケンミジンコ

では、お次はケンミジンコにいきましょうか。
あまりご存知でない方も多いでしょうが、海では生態系的に重要な動物プランクトンだったりします。もちろん、淡水でも至る所で良く見られます。
では、ケンミジンコの分類を見ていきましょう。

何だかシンプルになりましたが、注目すべきは綱のレベルです。ミジンコは鰓脚綱の一部と言いましたが、ケンミジンコは橈脚綱(かいあしこう)に属します。このように、名前的には近くても系統としては別物であることがわかると思われます。

で、肝心のケンミジンコについてですが、狭義の意味で言えばケンミジンコ目 ケンミジンコ科 ケンミジンコ亜科 ケンミジンコ属に含まれるものがケンミジンコであると思われます。ちなみに和名でケンミジンコといえばCyclops strenuus だそうです。しかし淡水を例に取ると、カラヌス目にもヒゲナガケンミジンコが居ますし、ソコミジンコ目 はケンミジンコという名前が含まれていませんが形態が似ています。このように、「ケンミジンコ」という単語は結構曖昧なものだと私は捉えています。何しろ橈脚綱が10目くらいを含んでいて多種多様ですので、以下の写真のような形態のものを一般的にケンミジンコと呼称し、橈脚綱の生物を指す場合は正確にカイアシ類やコペポーダと呼称しているように感じます。

ケンミジンコの仲間
ケンミジンコ(広義)
ケンミジンコの仲間
ソコミジンコの仲間
ケンミジンコの仲間(確かカラヌス目ボンテラ科の一種)

写真は拡大像ですので、実物はミジンコレベルで小さいです。動きとしてはぴょーんぴょーんとした感じで泳いでいて中々にすばしっこいやつらです。
細かい形態の解説は出来ないですし、そこまで詳しく知らなくともこんな感じなんだなぁって写真を見て知っていただければ良いかと思います。

 

カイミジンコ

推しです。
二枚貝の貝殻のような石灰化された背甲という殻に包まれているのが特徴的な可愛い子です。巷だと、波打ち際で発光する映像とかで有名なウミホタルという動物もカイミジンコですね。
分類は以下のようになっています。

先までの2生物群と同じく、綱のレベルでミジンコやケンミジンコとは別なことがわかりますね。この生物群はわかりやすく、貝形虫綱(かいけいちゅうこう)に含まれている生物をカイミジンコと呼称していて、ミオドコーパ亜綱とポドコーパ亜綱に大きく二分されます。
カイミジンコの形態について話す前に、実際の写真を載せていきます。

カイミジンコの仲間
この子もカイミジンコの仲間
カイミジンコの殻
このように殻に毛が生えている種類もいる

泳ぎ回る様子

動く様子(拡大像)

あまり良い写真や動画が無くて申し訳ないですが、何となくどんな生物かはわかってもらえたかと思います。二枚貝の殻で言う蝶番部分が背側にあり、腹側の隙間から脚を出して摂食や遊泳といった運動をするんですよね。その様子が中々に可愛いです。色が付いていて不透明な子はミジンコやケンミジンコよりも断然見つけやすく、肉眼でも滑るように泳いでいる様子を観察することが出来ます。

またこの殻は中々に丈夫で、カイミジンコの仲間の微細な化石も見つかるそうです。こうした微生物で古生物学が出来るのって凄いですよね。一度実物を見たことがありますが、本当にゴマ粒のような点々がある化石で、本職の方々には頭が上がらないなと感じました。

 

まとめ

ここまでの分類をまとめると下図のようになります。

 

こうしてみると、これらの生物を全部ミジンコ(広義)と呼んでしまうことの乱暴さがわかると思います。ミジンコ、ケンミジンコ、カイミジンコと名前やサイズ感が似ている子達ですが、分類的には割と上の方の階層でそれぞれの群に分かれるのです。

名前自体はわかりにくいですが、写真等で形態を見ると違いが一目瞭然ですよね。知ってさえいれば間違えることはないと思われますので、この機会に頭の片隅にでも覚えておいてくださると嬉しいです。ちなみに泳ぎ方も異なっており、ミジンコはピョンピョン、ケンミジンコはぴょーんぴょーん、カイミジンコはすいーっと泳ぐので、慣れてくると肉眼でもミジンコかケンミジンコかカイミジンコかということくらいはわかるようになります!実物の観察は大事です。観察と言ったってこんな生物見たことないなぁと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ミジンコ、ケンミジンコ、カイミジンコのいずれも淡水では特に良く見られます。皆さんの近所の池でも、きっとこの子達は懸命に生きていることでしょう。

さて、記事としてはこんなところですがいかがでしたでしょうか?分類とかの詳しいことはわからなくても、1 mm前後の世界を新鮮に感じてくださったならば幸いです。何か面白いなと思った人はメートル級の住み慣れた世界を離れて、ミリメートル、マイクロメートルの世界へと足を踏み入れてしまいましょう。生物の素晴らしさがより一層垣間見えると思います。最近では藻類のハンドブックといったお手軽なものもありますし、ネット上にも様々な写真がありますので、是非是非。

私としましては、ノルマの布教活動も終えたので満足です。駄文でしたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。お時間がありましたら、他の部員の投稿記事も是非読んでいってください。
m(_ _)m

 

後書き

気軽に書こうとしたら、結果的に図書館で真面目に調べる羽目になりました。それでも調査としては十分とは言えず、情報の正確性に欠ける気もしますが、あくまで概要を掴んで欲しいというのが本旨ですので、何卒お許しください・・・。
何でもはしませんが、許してください。

 

参考文献

今回、分類について調べる際に参考にした文献です。

  • 『日本淡水動物プランクトン検索図説』(改訂版), 東海大学出版会, 水野寿彦 高橋永治 編, 2000年
  • 『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』, 名古屋大学出版会, 田中正明, 2002年
  • 『日本産ミジンコ図鑑』, 共立出版, 田中正明 牧田直子, 2017年
  • 大塚攻 田中隼人, 顎脚類(甲殻類)の分類と系統に関する研究の最近の動向, タクサ:日本動物分類学会誌, Vol. 48, pp. 49-62, 2020