標本紹介

カテゴリー:雙峰祭2021

投稿日 2021106

更新日 2021年10月6日

南刺と申します。イモガイ類を中心に貝蒐集をしています。今回、好きな生き物としてイモガイを紹介する内容を書こうかと最初は思ったのですが、イモガイの紹介として相応しいと思う種数の紹介をするのには写真の撮影編集が間に合いそうにないことなどがあり、初投稿なので軽く標本紹介をすることにしました。

ちなみに紹介する種に特に脈絡はないです。たまたま写真を撮りやすいところにいたものの中で、ある程度語れそうだったものといったところです。

ヤエバイトカケ


ヤエバイトカケ
45mm フィリピン ミンダナオ島沖 250〜300m深

イトカケガイの仲間は名前の通りの糸を掛けたような縦肋が特徴的で、案外認知度が高いのではないかと思います。しかし、一般的なイトカケガイのイメージはおそらく有名なオオイトカケのものでしょう。イトカケガイは国内だけで数十種は確認されており、似たような種類が多くて非常にややこしいです。鎌倉などでは数種類が打ち上げで得られますが、本種のように深場のものも多いので、意外とコレクター人気が高い種は限られると思います。

ヤエバイトカケはそんな「人気のイトカケガイ」の筆頭といって良いと思います(オオイトカケは流通量がかなり多いので…)。薄い花びらのような縦肋が多数重なった塔高な姿はかなり優雅ですし、サイズもイトカケガイ類の平均に比べるとかなり大型なのでコレクションの中でよく映えます。

ちなみに、ヤエバイトカケは産出が少ないとはいえ、高級な標本店では高確率で置いてあるようなレベルなのですが、イトカケガイには貝類全体でも指折りのコレクター垂涎の種がいます(→ハナヤカイトカケ)

 

タキフデ


ヤエバイトカケのような深海の種では、生息環境と漁との相性などの問題で採取される量が少なくなりえます。しかし、いくつかの種は浅海性にもかかわらず、ほとんど採取されません。そういった種はソデボラ科に割と多いのですが、イモガイなど他の系統でもちらほら見られます。

それのフデガイ枠が本種です。希少性もそうですが、白地に鮮やかな三角斑という他に類を見ない外見もあり、ビーチコーマーの憧れともいうべき種です。日本〜中央太平洋で出現しますが、中でも沖縄や八丈島で出現頻度が高いと言われています。ただし、千葉県で拾ったという方もいました。

この個体はフリマサイトで、飾り用に売られていた「海で拾った貝殻」に入っていました。出品者の方曰く神奈川県産なのですが、本当なら結構なレア産地と思われます。

 

イモガイ類


ウミノサカエイモ 102mm インドネシア スラウェシ島

学名も英名も和名も「海の栄光」というイモガイ。今でこそよく出回る貝になっていますが、以前は文字通り「世界一高価な貝」として有名でした。細かい話は書く気力がないので省きますが、色々と逸話があるほか、珍しめのイモガイ類に「〜の栄光」という名前がつく現象が起こりました。最近でも、2009年に記載された本種とテンジクイモの中間のような種に”Conus glorioceanus”の名がつきました。

本種は紀伊半島以南の浅瀬に生息する普通種、タガヤサンミナシに近縁とされており、模様のパターンはほぼ同じです。本種が高級品だった頃の本では、「あんなタガヤサンミナシを引き伸ばしたような貝」という妬みのような文言が見られることがありますが、数多く採取されるようになった近年では普通に人気があります。

タイセイヨウノサカエイモ 33mm ホンジュラス

「〜の栄光」系の中で、ほぼ唯一当時から希少性が下がらなかったのが本種、タイセイヨウノサカエイモです。記載者はリンネでウミノサカエより先なのですが、英名が後から”glory-of -the-Atlantic”になりました。日本よりもイモガイ人気が高いはずのアメリカ近海の種なのですが、それでもほとんど出回らないあたり、個体数が絶対的に少ないか、普段は採集が困難な環境に生息しているかでしょう。

ニンギョウイモ 52mm セネガル ベルデ岬 1~2m深

おそらく殻の模様のお洒落さでいうとトップのイモガイだと思います。このように、点筋模様のもので斑点のサイズが変わったり、黒斑内に白斑、あるいはその逆が出るという種は他に思い当たりません。またこの標本では、成長に連れて点線間の隙間が空いてくると、新な点筋が入ってくる様子がわかります。新しく細い筋は規則正しい交互の白黒であることなども考えると、どのような遺伝子の発現調節でこの模様が生まれるのか、とても気になるところです。

ヒラセイモ 45mm フィリピン バラット島 150~200m

お洒落次点。こちらは日本近海にも生息する深海種で、「ヒラセ」は日本の貝類学の草分け的存在、故・平瀬與一郎氏への献名です。日本近海の貝類には「ヒラセ〜」や”〜 hirasei“という種が結構な数います。

ニンギョウイモとは生息水深も分布もだいぶ異なりますが、見ての通り本種も同様に「線の隙間が開いてくると新しい線が現れる」仕組みの模様なのが面白いです。

上:ミヤビイモ(ビクターイモ)36mm インドネシア バンダ島 5~10m深
下:subsp. skinneri 51mm インドネシア バリ島 45~50m深

ビクターイモは古代文字のような褐色の帯が特徴的なイモガイですが、この帯には変異があり、下に示したskinneriタイプはその一つです。個体によってはよく分からないくらい薄い場合もあり、近似種のミコトイモの亜種や変異ではないかという説と、殻頂の色などで明らかに区別されるので別種だという説があります。こういった種では飼育して交雑を調べるようなことがあまり行われないため、今後、貝類で亜種の独立種への格上げや、逆にフォームへの格下げなどの研究が多く行われることを期待したいです。

ちなみに、ミコトイモはテント斑のサイズがほぼ均一で、ビクターイモで褐色帯が出現する箇所でもそこまでテント斑が疎にはなりません。褐色斑が薄いビクターイモとは特徴が異なるように思います。下で写真があるボタンユキミナシは、ミコトイモ亜種とされており、テント斑が特に均一です。

チモールイモ 39mm モーリシャス

知名度は低いですが、好きなイモガイです。チモールという名前ですが、産地はモーリシャスやレユニオンのものの方がよく見かけます。流通はやや少なく、国内ではほとんど見かけません。

本種が含まれるTextilla亜属は不思議な仲間で、生息深度が極端には深くないタイプの少産〜希少種が集中しています。また、それでいて大型で模様が独特な種が多く、独特の光沢や老成の仕方もあるため、イモガイの中でも異彩を放つ一群として人気があります。

その他、気に入っていて写真も撮ったが、特に話が浮かばなかったイモガイ達。

1:オトギイモ 2:ユウキイモ3: ナナクサイモ 4:ボタンユキミナシ 5:アヤメイモ 6:アルマジロイモ 7:クサズリイモ 8:リュウグウイモ(ベンガルアルマジロイモ)

まとめ


結局イモガイばかりになってしまいましたが、海外のイモガイなどはほとんど馴染みがない方が多いと思いますので、貝類やイモガイに少しでも興味を持っていただけたようでしたら幸いです。