20200518日光市某所

投稿日 2020年5月18日

更新日 2020年7月29日

緊急事態宣言が解除されたので例年五月の終わりごろにコルリクワガタが出るのでちょっと気が早いけど行ってみることに。

まだ冬じゃねえか…雪まで少々あったぞ。

というわけで冬でもあるものとして地衣類の観察をば。この区画は樹状地衣類(つまりペタッと張り付くのではなく、もさもさした形状になっているもの)の多様性が極めて高く、また研究も進んでいる(研究年代はかなり古いのが問題ではあるか…)筈。

冬の雪でかなりたくさんの枝が折れ、地衣類ごと落下している。こうしたものを適当に流し見すると、多種多様な地衣類が見られる。

愚痴はともかくヤマヒコノリと思われる。こんなに大きくなるとは思っていなかった。一見したところサルオガセに似ているし似た場所に生えているが、ヤマヒコノリ属である。同属のツノマタゴケは香水や染物に用いるが、本種に芳香はないようだ。ツノマタゴケから得られる色素はオルセイン…つまり誰もが一度は扱ったことがあるであろう酢酸オルセインのあれである。染物ができるかどうかは知らない。そもそも染物に使うほどない。ツノマタゴケはコルクバークにも時々付着している。コルクバークにくっついている地衣類コレクションもまた楽しいかもしれない。結構いろいろなものが生えている。

ハリガネキノリ属の一種。通常ウメノキゴケ科の地衣類は白っぽく、緑藻と子嚢菌の共生によるものであるが、本属はさらに担子菌が共生する”三位一体”である。特徴的な色彩はこの担子菌の種類によるものらしい。左のように垂れ下がるケースは珍しく、一見すると垂れ下がっているように見えながら途中から多数の固着部を形成して比較的強固にくっついている。そのため、個体数は極めて多いのに落ちていることはめったにない。

コケリンドウだと思ってしまうくらい小さいフデリンドウ。がくがカールしていればコケ、茎が緑でロゼットだったものを伴えばハル、といったところのはず。いや流石に小さいってこれ…。

おそらくブナ帯を代表する着生シダのミヤマノキシノブ。最も耐寒性が高いシダのひとつであると思われる。この地域は常緑のシダが雪に埋もれる場所以外にほとんど生息しておらず、着生シダは本種のみが見られる。昼間でも-20度を切ることがある場所だけに、こんな場所の梢の先で吹雪に見舞われながら常緑越冬するとはすさまじい根性である。(雪の断熱効果は高く、豪雪地帯ではかえって熱帯の植物を越冬させられたりするとか。)

地上付近にはほとんど生息せず、樹上10m以上、目視では緑の点にしか見えない場所に専ら生育する。これは雪によって折れた大枝に着生していたもの。胞子嚢をつけた株は見られなかった。

ワラハナゴケであろうか。正直ハナゴケ類は珍しすぎて目が肥えておらず、違いがよくわからない。森林限界からそのさらに上に生育する地衣類であるが、一部の種はより暖かい地域にも適応している。たとえばむしろ南方系のトゲシバリ、比較的低標高からも聞いたことがあるハナゴケなど。但しこうした種の自生地がいったいどんなところなのか見当がつかない。

今回確認したワラハナゴケ?は古い切り株に発達したモスマットから生えるようである。いったいどうして切り株の必要があるかはわからない。倒木ではだめらしく一本も生えていなかった。たぶん標高が低すぎるためそんなに個体数は多くなかった。

ハナゴケ類は別名トナカイゴケと呼ばれ、鉄道模型の素材としてもおなじみのミヤマハナゴケがとくに有名である。ミヤマハナゴケは白根山に生育(確か南限だが)しているので、是非とも見に行きたいと思っている。(だっていまや北海道行くのもロシア行くのも北欧行くのも無理そうだし近場で我慢するしか…)

ところで生きているハナゴケはごわごわでしょうか、それともふわふわでしょうか?

答えは書かないので実際に見てみるまでのお楽しみにでも。

サルオガセ属の一種。こういう小さいサルオガセ類はよくわからない。栃木県レッドデータではまとめて準絶滅危惧種。仙人が食べるとして有名(霞を食って生きる、霞を食って生きる地衣類を食って生きれば霞を食って生きることになる・・・のか?という連想からか。ナガサルオガセは食えなくもないらしいが、ヨコワサルオガセは辛いとかいているブログを見たことがある)

*サルオガセという語はどこからきたのだろうか。猿尾枷という漢字がよくあてられるが、おそらくこれは当て字である。尾枷なる語は存在しないし、同じ漢字が当てられる狐尾枷はヒカゲノカズラのことである。これまた語源が怪しい。尾を束縛する??そもそも日本のサルに尾はないのだが…。

ここで「おがせ」麻桛は麻糸を巻き取ったものであり、転じて乱れてもつれ絡まるものを指すようになった。枷と音をかけて束縛という意味も出てきたようだが、二次的な意味であると思う(これ以上は詳しく調べていない。だれかこういう古語由来の語源を掘り下げてくれる人がいると嬉しいです…。)

 

とりあえず表記は「猿麻桛」とするべきであって、猿のいるようなところにあるもじゃもじゃ、という意味で名づけられたのだと思われる。そういうシチュエーションを作るのはおもに以下の二種、ナガサルオガセおよびヨコワサルオガセである。

 

ナガサルオガセ。似た種が多く、またこの株はそんなに大きくもないので正直同定に自信はないが、多分そうだと思う。この種は極めて広範囲に分布しており、北半球のいたるところで大繁茂している。緯度もそんなに気にしないようで、インドシナ半島やヒマラヤ山脈にも分布するようだ。サルオガセ類のイメージはほぼ本種によるものと言っていい。レッドデータブックとちぎでは本種とヨコワサルオガセ以外は準絶滅危惧種。

ナガサルオガセは殆ど固着部を持たず、風に飛ばされて引っかかることによって分布を広げる。ナガサルオガセには生長点が存在せず、全体が伸長するようにして成長することや、湿るとふにゃふにゃになるものの乾くと縮んで硬くなり、細かい毛が互いにフックのように働いて簡単には外れなくなるなどといった引っかかることへの適応がいちじるしい。

地衣類は移植が無理であるという話をよく耳にするが、本種を移植できないのは単に栽培技術が足りないだけであるはずだ。事実北米で生息地の外に移植してみたところ、移植先の方がよく育ったという論文もある。(要するに生息域が限られるのは拡散が遅い(胞子をあまり作らない、また胞子からの成長が遅い。拡散能力が低いわけではない点に注意)ためらしい。)

ヨコワサルオガセ。ブナ帯から上に広く分布する大型のサルオガセ類である。どうも樹冠にはたくさん生えているようであるが、低いところにもぽつぽつある。ナガサルオガセと同じく、気にすると結構見つかる種かと思う。長くのびる点ではナガサルオガセに似ているが、先端がぶどうの蔓のようになっているし、細かい節にわかれている。形態からするにナガサルオガセとは異なり、先端部を中心に成長するものとみられる。また引っかかった先でしばしば吸盤状に木に固着することにより、ナガサルオガセより太く重いうえに分岐が少ないにもかかわらず、落下しにくくなっているようだ。

 

シモツケババヤスデ。極めて派手なヤスデであり、日光の森では常連である。ブラックライトを当てると強く蛍光する。後一か月もすると無尽蔵に見られるようになる。

ナミコムカデ属だろうと思う。結構(軽く探して10匹以上は)見かけた。意外と大きく、けっこう存在感がある。スマホカメラでも映るのは嬉しい。

よくあるコルリクワガタの産卵マーク。材割は好みじゃないし、こういう材に本当に生息しているのか疑問である。

(以前ブリードしたことがあるが、古びた産卵木を転がしておけば結構簡単に産卵する。バクテリア材でも用意しておけばちょろいだろう。問題は羽化してから脱出時期が揃わず、時期不同にハッチしたり蛹室の中で出てくることなく死んだりする点である。一度だけ、「コルリマーク付き産卵木」が売っていたことがあり爆笑してしまった。)

*日光のコルリクワガタはタイプ産地だったかと思うが(詳細はクワガタ屋に投げておく)、生態不明である。新芽に集まっている姿は発見できたためしがない。むしろ地面に落ちていたり、こっちめがけて飛んでくるのを叩き落として採るほうがよっぽど効率がいい。そんな感じなのでとうぜん、しばしば観光客に踏みつぶされている。